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須田光太郎 /心を正す

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平成20年度 第30回中学生の部 優良賞

関東地区代表
栃木県 河内剣道クラブ

 「自分はどんな人間だろう。」僕はときどきそう思うことがあります。
  僕は小さい頃からひどく短気で、ちょっとしたことですぐに怒り、けんかをしてしまいます。そし て、けんかをしてしまってからいつも「なんて情けないんだ。どうしてこんなことしてしまったんだ。」 と、自分自身がとても嫌になってしまいます。また僕が大好きな剣道でさえ、試合で上がってしまって自分の調子が出せないまま負けてしまったとき、本当に自分に腹が立ちます。
 あとで後悔すると分かっていて短気を起こしてすぐにけんかをしてしまったり、勝負で勝つために つらい稽古をしてきたのに本番で自分の力を発揮できなかったりするのは、どうしてなんだろう。最近、僕はそんなことを考えるようになりました。そして、思い当ったのは「心」の一文字でした。
  けんかをしたり、剣道の試合で不本意な結果に終わるたびに、先生方や両親から「心を鍛えなさい。」 と言われてきました。「平常心」や「不動心」などと教わってきましたが、それでも、ちょっとしたことに腹を立てたり、試合に勝てないで落ち込む時期が続きました。
  人から助言されても身につきませんでした。「心」というものがすうっと身体に入ってきたのは、ある日の剣道の先生の講話の言葉でした。「剣は心なり。心正しからざれば剣また正しからず。剣を学ばんと欲すれば先ず心より学ぶべし。」この言葉は勝海舟の師である島田虎之助先生の言葉です。これまでにも何度か聴かされた言葉でしたが、このとき初めて「正しい心」とはどんな「心」なのか考えも せずに聴いていたことに気がつきました。
  剣道は勝ち負けと同じくらいに「心」を大切にします。僕が試合に臨んでいるとき、僕はすぐに相 手のペースに巻き込まれそうになり、先生方から「下がるな。自分から前に出ろ。」という言葉が飛ばされます。そんな僕にとって「心」とは「相手に負けない強い心」、相手よりも強い勝負に対する執着心でした。剣道に強くなりたい一心で、相手に負けない「強い心」を持つことを目標にしてきました。しかし、「剣は心なり」の話を聞いたとき、ふと、「相手ではなく自分のことか」と気付いたのです。
  剣道の試合は相手と戦っていると同時に自分とも向き合っている状態で、そこで大切なのは相手に対する「心」よりも自分に対する「心」ではないか。不安、恐れ、嫉妬、迷い、そして怒りなど、その時その時で変化する自分の「心」を自由にコントロールできるように努力することが「心」の修行なのではないか。そして「正しい心」とは、そのようにして会得した精神力を「正しい目的」に対し て発揮しなければならない、ということなのです。稽古で学んだ技や精神力をけんかの道具とすることなく、人の役に立つという目的に使うことこそ剣道を学ぶ究極の目標であり、人の役に立てる人間になるために「心」を鍛えることが「剣心」の修行なのです。
  僕は将来、何か人の役に立てるような仕事に就きたいと考えています。そのために、今は「心」を 鍛えたいと思います。小さなことですぐかっとなったり、迷ったり、落ち込んだりしない、いつも穏やかに笑っていられるような「心」を持ちたいと思います。そして人に信頼される人間になりたいです。試合に勝ちたくて考えるようになった「心」は、ふとした話をきっかけに、僕の中でいつの間に か試合を離れて大きな目標となりました。
  それからときどき「今、自分はどんな人間だろう。笑っているだろうか、信頼に値する言動を行っ ているだろうか」と思うようになりました。「心を正しくする。」僕はこの言葉を背負って充実した1日1日を過ごしていきたいと思います。