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谷戸紳太郎 /挑む

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平成19年度 第29回小学生の部 最優秀賞

関東地区代表
神奈川 征道館岩尾道場

 僕は学校で「千年の釘に挑む」という授業を受けました。内容は現代のかじ職人が千年前のかじ職人が作った釘に負けない釘を作り古代の建築物を再現する実話でした。
  ふと、自分におきかえて「挑む」という事を考えた時、僕は迷う事なく剣道の事が頭にうかびました。剣道は、どんな相手と戦うか分かりません。僕は自分より大がらな相手でも小がらな相手でも必ず全力をつくして相手に挑んでいきます。それは僕の試合相手がほとんどと言っていい位、小がらな僕をあなどってかかってくるからです。低学年の頃は気づきませんでした。でも学年が上がるにつれ相手が僕をバカにしてかかってくるのが見えてきたのです。僕は僕のされた事を絶対に、だれにもしたくありません。
  だから僕は自分より小さい子と、けいこする時も絶対に気をゆるめません。
  全力で向かってくる相手に対して失礼な態度は、礼に始まり礼で終る剣の道に反すると思います。
  理屈は、そうなのです。
  でも、道場内での試合げいこでも勝てずあなどられる日々、選手にも選んでもらえないくやしい思い、つらいけいこ。どれだけやめてしまいたかったか。体の大きい相手と戦う時の上から見下ろされる圧力と恐怖。本当は、怖いです。逃げたいと思った事も数えきれません。
  そんな、つらい時、母に聞かれたのです。「紳太郎は誰と戦っているの?」と。
  僕は、はっとしました。
  僕が本当に負けてはいけない相手、それは自分自身の心の中にひそむ弱い自分なのだと気付いたのです。自分に負ければ必ず目の前の相手にも負けてしまう。やる前から「この相手なら負けてもいい」と決めつけている弱い自分こそ真の負けてはいけない相手であり、絶対に逃げてはいけない相手なのだと気付いたのです。
  どんな、状況でも挑んでいかなくては、いけないと分かっている自分と、でも逃げたいと思っている自分との勝負なのです。
  「逃げる」と「挑む」という字を見ると、ほんの少しのちがいです。しかし、見る事の出来ない心の部分は大変なちがいなのです。さらに、僕は気付きました。わずかな字のちがいだからこそ、ほんの少しの努力と勇気で「逃げる」から「挑む」に自分を変えられるはずだと。
  ずっと勝ち続けている人や、つねに選手に選ばれている人には分からないと思います。
  でも、それに気付いた僕は以前の僕とはちがう、どこか、たくましい自分を感じる様になりました。
  それが試合の結果にも現れ始めたと思います。
  今、試合に勝てなくて苦しんでいる人、気持ちが前向きになれない人、やめたい人。
  負けないで下さい。
  真のてきは自分の中にいます。つらい事を味わったからこそ真の強さを身に付ける事のできた、輝いている自分の姿が未来に必ず、あるはずです。
  自分を信じて、未来を信じて一歩でいいから前に進んでみて下さい。僕が変われた様にきっと、何かが変わると思います。
  つらく、くやしい想いのまま、あの時「剣道」をあきらめてしまっていたら、今の僕は存在しなかったと思います。苦しい事から逃げずに、挑んで本当に良かった。剣道を続けて本当に良かった。
  そして僕にとっての試練はこれで終りではないはずです。この先も色々な試練がきっと僕を待ちかまえている事と思います。
  でも僕は次の試練にも正面から「挑ん」でいきたいと思います。