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唐田惟芙紀 /大切なもの

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平成21年度 第31回中学生の部 最優秀賞

東北地区代表
青森県 野辺地剣友会

 私はこぶしを強く握った。「悔しい」その言葉が体中を駆けめぐる。なぜ思うようにいかないのだろ う。最近ずっとこの調子だ。
  私の通う道場は週3回練習があり、幼稚園児から高校生、もちろん沢山の先生方も来て下さる。人数は多いとは言えないが、みんなが一生懸命で充実した稽古をしている。剣道との出会いは中学1年の春。武道に興味があり剣友会に入会した。何の知識もないそんな私に、初歩から教えてくれた先生 方や先輩がいた。毎日の講和や稽古からの新鮮な発見、剣道の凛々しさに惹かれ、どんどん剣道が好きになった。道場に行くのもたまらなく楽しみだった。そんな毎日にも少しずつ変化があらわれた中学 2年の頃。同じ事の繰り返しのように思えて、いつの間にか稽古に行くことに義務感をもち始めた。そのためだろうか、思うように体が動かず、せっかく来て下さった先生との稽古も「こなすだけ」になり、自分に嫌気がさす。技もキレがなく、竹刀が重い。無気力が続く。試合に勝てないのも当たり前 だが、結果が残せずにいる自分にいらだつ。そして、気づかぬうちに「本当に大切なもの」も忘れていった。
  そんな私に転機が訪れる。全国道場連盟の出場をかけた県予選会。その大会で、私は大将を任せられ、チームを引っ張ることになった。試合は接戦…一進一退の攻防だった。そして勝敗は代表決定戦にもつれこむ。予期せぬことがおこった。私に代表の声がかかったのだ。不安だった。仲間の視線が 突き刺さるように痛い。試合が始まり、あがった旗は…相手の方だった。私の負け。そしてチームも負けた。しかし仲間たちは「次、頑張ればいいじゃん」と私を支えてくれた。あの痛いと感じた視線は無言の励ましであり、本来辛さを感じるものではなかった。あの時の私はそれさえも気づけず、仲間への信頼も忘れていたのだ。言葉にできない想いが涙となって溢れた。「ごめんなさい」でいっぱい だった。
  次の稽古の日、いつもどおり道場へ行くが今までとは違う。あの大会で、あの敗北で気づいたことがある。「勝つ」ということ。それは試合だけでなく、自分の弱い心に、という意味でもある。剣道を 正しく真剣に学び、礼節を尊び、常に自己の修養に努める、それが真の強さではないだろうか。今まで支えてくれた人達や大切な仲間の気持ちにも気づけず、自己中心的になっていた自分に、この日をもって終止符をうつ。
  私の通う道場では「道場」という枠を超えて地域の清掃活動に参加し、道場の教えを日常生活の中でも忘れないように、とよく言われている。こんなすばらしい道場や先生方、仲間たちに出会えて、 愛情をもらい、成長できて本当に嬉しい。
  季節が変わっても、時が経っても、薄れることのないものが剣道にはある。私は、剣道の美しさやすばらしさを次世代へ伝えていきたい。同じ目線に立ち、夢を与え、強く、優しく、たくましい子ど もを育てたい。剣道から学んだたくさんのことを子どもたちに教えたい。だから、私は小学校の先生になるつもりだ。剣道はこんな私に夢までも与えてくれた。私は、そんな剣道が大好きだ。
  私の忘れていた「大切なもの」。それは、剣道から学ぶ、長い間受け継がれてきた人間形成の道だっ た。私には学ぶべきものがたくさんある。これから私は、強くなることに気をとられず、本当に大切 なものを探しながら生きていく。今、私の目の前にはいろんな可能性が、無限大に広がっている気がする。
  最後に…。私をここまで変えてくれた剣道と、育ててくれた全ての人達に言いたい。心から「あり がとう」。